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大津地方裁判所 昭和24年(行)1号 判決

原告 荒堀留三郎

被告 滋賀県農地委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「大津市石山南郷町字田中二百六十一番田九畝二十歩の買收計画に関して原告が提起した訴願につき被告が昭和二十四年十二月一日なした訴願棄却の裁決を取消す訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、訴外大津市農地委員会は昭和二十三年九月十一日原告所有の請求の趣旨記載の農地に対し、自作農創設特別措置法(以下單に自創法と略称する)第六條の五及び同法第三條第一項第二号により買收期日を同年十月二日とする買收計画を樹立し、原告はこれに対し同年九月二十一日異議を申立てたところ、大津市農地委員会は、昭和二十三年十月八日右買收計画を取消しあらたに、買收期日を同年十二月二日とする外は右計画と同一内容の遡及買收計画を樹立すると同時に原告の前記異議申立を新買收計画に対する異議と看做して同年十月十日これを却下する旨の決定をなしたので、原告は新計画に対し改めて異議申立をなすことなく同年十月二十日右却下決定に対し被告に訴願したところ同訴願は同年十二月一日裁決を以て棄却され、右裁決書は同月二十一日原告に到達した。

しかしながら、(一)昭和二十年十一月二十三日現在原告所有小作地面積合計は一町三反三畝十五歩であつたから滋賀縣における保有小作地面積七反歩を差引けば、同日現在における買收可能面積は六反三畝十五歩となるところ、昭和二十二年十二月八日樹立された遡及買收計画に基き既に五反五畝七歩が買收されているので、余すところは八畝八歩であるのに、重ねて九畝二十歩を遡及買收せんとする本件買收計画は原告に保有を許された小作地面積中一畝十二歩を侵すものである。(二)また原告は本件農地(水田)の下手に隣接して相当面積の水田を自作してをり、その自作田の用水は一旦本件水田に取入れられた落水を利用したり、本件水田の用水取入口より下流にある取入口から引水している関係上、本件水田が買收されて他人所有となるときは、右原告の自作田の用水に著しく不便不都合を生ずることは容易に予測される所であり、一方原告は右自作田の更に下手に当る所に訴外青山林三耕作の小作田二筆合計一反七畝三歩を所有しているので、この小作田の一部を買收すれば、原告自作田の用水に障を與えることなくして所要面積買收の目的を達することができるのであるから右の事情を調査斟酌せずしてなした本件買收計画は著しく不当である。以上の各事由により本件買收計画は違法であるにも拘らず、これを適法として原告の訴願を棄却した本件裁決はまた違法であるから、その取消を求めるため本訴に及ぶと述べ、訴外青山林三が既に農地五反五畝歩の賣渡を受けているのに対し、本件農地の耕作者たる訴外野上茂治が他に賣渡をうけた農地を有しないこと及び昭和二十年十一月二十三日現在における原告所有小作地で、既に買收されたものを除く小作地中一筆の面積が八畝八歩を満たし、しかもこれを超ゆること最も少いものが本件農地であることはいずれもこれを認めるが、その余の被告主張事実はすべて否認すると述べた。(立証省略)

被告指定代理人等は、主文同旨の判決を求め答弁として、原告主張事実中その各主張の各日その主張の如き買收計画の樹立、異議の申立、右買收計画の取消と新計画の樹立、異議却下決定訴願、同棄却裁決竝びに裁決書の送達がそれぞれなされたこと、昭和二十年十一月二十三日現在における原告所有小作地面積、既に遡及買收ずみの農地面積がそれぞれ原告主張の通りであり、從つて本件買收農地の面積が原告の買收可能農地の面積を一畝十二歩だけ超過すること、及び原告の自作田より用水路の下流に当る箇所に訴外青山林三の耕作している原告主張のような小作田のあることは認める。しかしながら(一)市町村農地委員会が自創法第三條の規定によつて買收する農地を決定するに当つて分筆をさけるため必要があるときは、中央農地委員会において府縣別に定めた保有面積(滋賀縣における小作地の保有面積は七反)から一反歩以内の面積を差引いた面積を以て自創法第三條第一項第二号の地主の保有面積とすることができるのであつて(昭和二十二年五月十四日農林省告示第七十二号備考二)大津市農地委員会は本件買收計画の樹立に当り、原告の買收可能小作地の中八畝八歩を満し、しかもこれに最も近い面積を有する本件農地を選ぶと共に(昭和二十年十一月二十三日現在における原告所有の小作地の中字田中二二七番田八畝十八歩は昭和二十二年十月滋賀縣知事の許可をうけて原告の自作地となつたものであるから買收適地でなくなつている)その超過部分一畝十二歩を分筆することは却つて農地利用の合理化を計る上に適当でないと認め、前記告示の規定に從つて原告保有面積をそれだけ縮少して本件農地全部につき買收計画を定めたのであるから何等違法の点はない。また(二)本件農地に隣接する原告自作田は本件農地とは別個の用水取入口を有し、これを経由せずとも用水を供給し得るようになつてをるばかりでなく、そもそも本件水田は從前から野上茂治が耕作して來ていたものであるから、これが買收及び賣渡処分により野上がその所有者となつたからといつて本件水田の耕作利用関係にはごうも変動を來たさないのであつて、本件買收により原告自作田の用水に支障を來たすとの原告主張は合理的根拠に乏しいものである。更に(三)原告主張のように訴外青山林三の小作地を買收するとすれば、同人が第一順位者としてその賣渡を受けることとなるところ同人は既に買收農地五反五畝歩の賣渡をうけているのに対し、本件農地の耕作者野上茂治は自作地六反九畝四歩小作地二反四歩を有するのみで、いまだ買收農地の賣渡をうけていないので大津市農地委員会は右のような事情を考慮した上、本件農地を買收するのが自作農となるべき者の農地買受けの機会を公正にする上からみて最も適当であると認めて、本件買收計画をたてたのであつてごうも原告主張の如き違法の点はないと述べた。(立証省略)

三、理  由

訴外大津市農地委員会が昭和二十三年九月十一日原告所有の大津市石山南郷町字田中二百六十一番地田九畝二十歩に対し、自創法第六條の五及び同法第三條第一項第二号に基き、同年十月二日を買收期日とする遡及買收計画を定め、これに対し原告が同年同月二十一日異議を申立てたところ、同農地委員会は同年十月八日右買收計画を取消すと共に、買收期日を同年十二月二日とする外は右買收計画と同一内容の買收計画を新たに定め、原告の右異議申立を新計画に対するものと看做し、同年十月十日これを却下する旨の決定をなしたので原告は新計画に対し改めて異議を申立てることなく、この決定に対し同年同月二十日被告農地委員会に訴願し、被告は同年十二月一日右訴願を棄却する旨の裁決をして同月二十一日裁決書を原告に送達したことは当事者間に爭いのない処である。

そこで先ず大津市農地委員会が原告の昭和二十三年九月十一日なした異議申立を同年十月八日樹立した買收計画に対する異議として取扱い、同年同月十日これを却下したのに対して原告が直ちに被告に訴願し、更に本訴に及んだ点の適否につき職権を以て考えてみるのに、本件新旧二個の買收計画が、買收期日を異にする外は全然同一内容のものであることは当事者間に爭がないところであり、右は大津市農地委員会が異議につき決定をしない間に当初の買收期日が経過してしまつたので、單に買收期日のみを変更して新規の買收計画をたてるのを相当と考えて自ら最初の計画を取消すと共に、実質的には全く同一の新買收計画を樹立したものであることが看取されるので、かかる場合に旧買收計画に対して既に異議の申立をしている農地所有者に改めて新計画に対する異議申立を強いることなく、新計画に対しても当然異議の申立をするであろう所有者の意思を推測して旧計画に対する異議を新計画に対する異議として流用したとしても結果において何等の不都合を生ずるわけではなく、農地所有者の利益を害することにもならないのであるから、農地委員がすでに右のような取扱をした以上、原告の旧計画に対する異議はそのまま新計画に対する異議としての性格を具有するに至つたものとして扱うのが相当であり、從つて本訴は昭和二十三年十月八日樹立された買收計画につき異議及び訴願を経て提起された適法のものというべきである。よつて進んで本件買收計画が原告主張のような違法のものであるか否かについて審究する。

昭和二十年十一月二十三日現在における原告所有の小作地の面積が一町三反三畝十五歩であり、その中五反五畝七歩が本件買收計画以前既に国に買收されていることは当事者間に爭のないところであるから、本件買收計画樹立当時の原告所有の買收可能小作地の面積は右残りの面積から滋賀縣において保有を認められている七反歩を差引いた八畝八歩に過ぎないものである処、本件買收農地の面積は九畝二十歩であるから本件買收計画は前記八畝八歩を一畝十二歩だけ超過することは明白である。しかしながら、自創法第三條第二号に基く昭和二十一年四月十日農林省告示第四十二号(昭和二十二年五月十四日農林省告示第七十二号改正)の備考二によれば、市町村農地委員会が自創法第三條により買收農地を決定するに当り分筆をさける爲必要があると認めるときは、中央農地委員会の定めた保有面積から一反歩以内でその決定する面積を差引いた面積を当該場合における地主の保有面積とすることができることとなつており、本件農地が原告所有の小作地の中現在右買收すべき面積を満し、しかもこれを超ゆること最も少ない面積のものである当事者間に爭のない事実と本件檢証の結果によつて、明かである前記九畝二十歩の農地は略々矩形をなす平坦なる一枚の田地であつてこのうち一畝十二歩をそのいずれの箇所において分筆してもいたずらに農地を細分しその耕作を煩雜ならしめ、これが利用價値を削減せしめるに至るおそれのある事実からすれば大津市農地委員会が右八畝八歩の面積を買收するに当り、面積の上において原告の損害を最少限度に止めるような本件農地を選定した上分筆をさくるため必要ありとしてその全部について買收計画を樹立したことは相当の措置であつたというべく、從つて右買收計画及び本件裁決はその点においては何等の違法なしと断ぜざるを得ない。

次に原告主張の(二)の点であるが、檢証の結果によれば、本件水田及びこれに隣接する原告の自作田にはその北側にそつて東西に灌漑用水路が設けられており、原告の自作田の中右水路に面するものにはそれぞれ本件水田と別個独立の取入口が設けられていて、その自作田を経由して右水路に面しない原告の他の自作田へも引水出來るようになつているのであつて、原告のいうような本件水田の落水を利用する如きものでないことが認められ、なお原告は本件水田の用水取入口は原告の自作田のそれよりも上流に位することよりして、本件水田が他人所有となるときは下流に位する原告の自作田の引水がさまたげられるに至ると主張するが、そもそも本件水田は從前より野上茂治が耕作して居つたのであつて、今回の買收によりこれが同訴外人の自作地になるからといつて、これがためその耕作関係には何等の変動もないわけであり、從つて他に特別の事情なき限り用水利用の面においても特に原告に不都合を來たすものとは考えられず、かかる特別事情を認むべき何等の証拠もないのだから、原告の右主張は首肯し難いところである。さらにまた、原告の自作地の下流に訴外青山林三が耕作している原告所有の小作地として一反二畝十八歩及び四畝十七歩の二筆の田地があることは当事者間に爭がないところであるけれども、右青山が既に五反五畝歩の開放農地の賣渡をうけているのに対し野上茂治が本件農地以外に賣渡をうけたものがないことはこれまた当事者間に爭がない事実であり、從つて大津市農地委員会が本件遡及買收計画をたてるに当り、その対象農地として本件農地を選んだことは分筆をさけることによつて農地所有者たる原告の蒙むる損害を最少限度に止めると共に、自創法第六條第四項の自作農となるべき者の農地買受の機会を公正にする趣旨にも合致するものといい得るのであつて、原告本人尋問の結果によるも右認定を左右するに足りない。

以上説明の如く本件買收計画及びこれを支持した被告の裁決にはごうも違法の点はなく、原告の本訴請求はすべてその理由なきに帰するからこれを失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文のように判決する。

(裁判官 小石寿夫 八塚英一 東民夫)

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